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2021年12月

筆と硯 第73回正倉院展

もう1カ月も前になったが、晩秋の奈良国立博物館で開催された第73回正倉院展(10月30日⁻11月15日)を観てきた。ちょうど緊急事態宣言が解除され、なぜか新型コロナ感染者は激減、お出かけ安心感が広がって近鉄奈良駅から博物館までの登大路はベビーカーの親子連れなど人出がぐっと増えていた。見上げれば紅葉、生垣には山茶花 季節はゆっくり廻っている。

 Kouyou 20211121_080350ヒトとかかわる仕事を持つということは、流れ弾ならぬ暗闇からの石つぶてが頬をかすめたり、想定外の困難が降りかかるのは承知していたはずなのに…晴れて機嫌のよい日ばかりが続くはずもないのに、いざ嵐に近い土砂降りに遭遇すると心が挫けそうだった。6週間過ぎた今、やっと前向き思考になり、困難を乗り越えることは自分を成長させるステップだと思えるようになった。中高年になっても成長は必要らしい。  下書きのまま放置していた正倉院展ブログに取り掛かる気力も出てきた。昨年同様、今年も日時指定の事前申し込み入場券で混雑はわずか。

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図録表紙を飾る螺鈿紫檀の阮咸(らでんしたんのげんかん)=丸い胴の弦楽器。拡大した槽の部分はとりわけ見事で、2羽のホンセイインコらしき鳥が旋回する様子がヤコウガイ、タイマイ等で華麗に装飾されている。会場内には阮咸の物悲しい音色がビヨーンビヨヨーンと響いて雰囲気を盛り上げる。    聖武天皇様(701⁻756]は、生母藤原宮子が彼を出産後に重度の心的障害を起こし、母の愛を知らずに成長された。即位後は地震.旱魃.天然痘大流行、長屋王 藤原広嗣の乱などが続き災難が度重なります。総て天皇の徳が足りないからにされてしまうご時世ですから、彷徨える天皇といわれるくらい遷都を繰り返して改善を試みるも全く効果なし。

Photo_20211216164401頼るは仏教のみ‼巨大な廬舎那仏を建立しておすがりしましょう‼  華やかに見えても聖武天皇さまの国庫はひどい財政難、東大寺を建てたり大仏様をおつくりする費用はどこからも出ない。ここに強力な助っ人現る‼ 民からの信望熱い僧 行基さま。彼が全国行脚して、大仏建立の意義を説き物資や人手を集めて回り、9年にわたる日本国あげての一大プロジェクトが始まります。行基さまは752年の大仏開眼を見ることなく没し、聖武様も東大寺と廬舎那仏を残して756年に崩じられます。

  Photo_20211111082801  Photo_20211214140701  天平の文房具セット、硯、墨、筆である。正倉院に唯一伝わる青斑石の 、硯をはめ込んだ六角形の床石と木製の床脚、多様な素材と技巧を凝らした古硯は世界でも例がないとか。漢字の風をイメージした硯は『風字硯』と呼ばれ、墨筆文化に寄せる天平人の熱い思いが感じられる。舟型墨は長さ22.2cm幅は約3cm、松脂を燃やした煤の松煙墨と煮溶かした膠を練り合わせ乾燥させた国産墨ですって…写経事業に使われた可能性大。

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筆管は竹、筆は長さ17㎝から21.6㎝、筆自体は中心に芯になる獣毛を立て、周りを紙で巻いてさらに数回にわたって毛と紙を交互に巻いて作られている。装飾性が高いこれらの筆は、有芯筆(巻筆,雀頭筆)と呼ばれる貴重な存在。様々な色に染めた未使用の紙100枚くらいを紙で包んだヒノキ製の軸木に巻いたもの、長さ28.5㎝×46.5㎝、五色紙と称された。

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写経所に勤務する下級役人の文書12通をつないで1巻にまとめたうちの2枚。薄ネズ色の文書は、麻柄麻多麻呂さんがコメの借用を申し出て、20日後には稲を刈って精米して必ずお返ししますと。ちょっと切ない文書です。  もう1枚は、川村福持さんが若桜部朝臣梶取(わかさくらべのあそんかじとり) さんを写経所の校生に採用していただけませんかというお願い。知人か親戚の坊ちゃんを少しでも収入のよいところにお世話してあげましょうは勘繰りでしょうか。雲上人には雲上人の、庶民には庶民の苦しみがある。でもいつの時代も庶民は逞しく生き抜くすべを知っていますね。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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